2012年2月1日水曜日

【読書】旅をする木/遠い北の大地を想う


よくある喩え話で、「無人島に、本を1冊持っていけるとしたらどの本にするか」
という問いがあるけれど、そんなことがもし現実的に起こったとしたら
悩みに悩んだ挙句に、ぼくはこの本を手に取ると思う。

星野道夫 『旅をする木』


アラスカの自然を撮り続けた写真家、星野道夫のエッセイ集。
解説を含めて241頁しかないとても薄い本だ。














久しぶりに読み返してみたけれど、
風景描写の美しさや、アラスカを舞台にした人々のドラマが、
何度読んでも、胸を打つ。


僕がこうして、新宿のオフィス街の片隅で、
深夜、パソコンに向かってキーボードを叩いている、この瞬間・・・、
アラスカの凍てついた大地を、カリブーの大群が行進し、
南東アラスカの海で、シロナガスクジラが潮を吹き上げ、
ルース氷河の上空には、オーロラが舞っているかも知れない。

同じ時間軸の中で、まったく異なる世界が存在していることの
なんとも言えない不思議さと、奥深さに、思いを馳せずにはいられない。

矢のように過ぎ去っていく時間に属しているからこそ、
人間が主役ではない世界の悠久の時の流れに意識を落してみることで、
バランスが取れるような気がする。



ドッグイアにまみれたページの中から、
僕が気に入っているセンテンスを抜き出して引用する。



無窮の彼方に流れゆく時を、
めぐる季節で確かに感じることができる。
自然とは、何と粋なはからいをするのだろうと思います。
1年に1度、名残惜しく過ぎてゆくものに、
この世で何度めぐり合えるのか。
 その回数をかぞえるほど、
人の一生の短さを知ることはないのかもしれません
(北国の秋より)

人間の気持ちとは可笑しいものですね。
どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、
風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。
人の心は、深くて、そしてふしぎなほど浅いのだと思います。
きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。
(新しい旅より)


私たちが生きてゆくということは、
誰かを犠牲にして自分自身が生きのびるかという、
終わりのない日々の選択である。
生命体の本質とは、他者を殺して食べることにあるからだ。
(カリブーのスープより)

手が届きそうな天空の輝きは、
何万年、何億年前の光が、やっと今たどり着いたという。
無数の星々がそれぞれの光年を放つなら、夜空を見上げて星を仰ぐということは、
気の遠くなるような宇宙の歴史を一瞬にして眺めていること。
が、言葉では分かっていても、その意味を本当に理解することはできず、
私たちはただ何かにひれ伏すしかない。
(ルー
ス氷河より)

アラスカという大自然に何年も向き合った写真家だから持ち得たであろう、
自然に対する真摯な眼差しと洞察が素敵だ。

何時の日か、彼と同じ景色をみてみたい、そう強く思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿